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何かが潜むビル

2016/05/14

1995年頃の出来事だ。
私は汎用系コンピュータ(馬鹿でかい業務用コンピュータ)のオペレータという仕事をしており、都内某所の企業の持ちビルに配属となった。
ビルは昭和初期に建てられたような鄙びた雰囲気があった。
配属初日、関係各位へのご挨拶とともに、必要な施設を案内された。
案内された中で、ひときわ印象深かったのが「仮眠室」である。
中に一段高くなった畳部分があり、本来落ち着くはずのその部屋が妙に暗く、気持ち悪い印象だった。
「絶対にここで休まないようにしよう」
そう思った。
後に現場の人に聞いてみたところ、
「あそこで寝るとね、必ず金縛りになるんだ」
そう言っていた。

夜勤がある仕事だった。
夕方に出勤し、朝に昼間勤務のメンバーに引き継いで帰る、そんなシフトがあった。
夜勤は現場ルールで必ず2名としていた。
ある夜、そんな夜勤での出来事。

操作する端末画面は黒地に緑の文字が流れるもので、黒地部分の面積が大きいため、後ろの風景が反射して見える。
夕食後、私が単独で端末を操作していたとき、後ろで、

ぺたん、ぺたん

という、スリッパで歩く音が聞こえた。
私は相棒が来たと思い、画面越しに後ろを確認したが、何も映っていない。
振り返ると、そこには誰も居なかった。
ご都合主義の私は、単なる聞き間違えだと流した。

深夜2時から3時頃には、帳票仕分けという仕事がある。
出力した印刷物を、配布先ごとに仕分ける仕事だ。
その作業を行うのは、2基しかないエレベータのある、薄暗いホールに置いた、簡易長机の上である。
エレベータに背を向ける形で作業する。
そこで一人作業をしていると、エレベータが上がってくる音が聞こえた。
ここには警備員がおり、夜間巡回をしているため、それだと思った。
エレベータは他の階に止まることなく、この階まで来て、チーンという音とともに開いた。
私は、お疲れ様です、と言おうとして振り向いたが、最後まで言い終えることはなかった。
「お疲れ様で・・・」
振り向いたそこには、誰も居なかった。
一瞬、何が起きたか分からなかったが、即座に
「ああ、警備員がエレベータの動作点検をしているのかな」
そう思うことで、心を落ち着けた。
後に警備員に聞いてみたところ、
「そんな時間に点検はしませんよ。第一その時間は仮眠をとっています」
ということだった。

ここでの怪異はこれぐらいだったが、顧客都合ですぐに新しいビルに引越しをすることになった。

引越し先は埼玉県某所。
新築ビルで、5階から上が吹き抜け、5階が食堂で6階以上は女子寮となっていた。
ところが、このビルでも怪異が起こった。

ビルの1フロアがほぼ全て汎用コンピュータルームとなっており、出入りには2重の扉をカードで認証して通る構造となっていた。
これがしょっちゅう故障する。
何度も目撃したが、認証していないのに扉が勝手に開閉するのだ。
翌日にすぐ点検を行うのだが、何度も何度も同じことが起きる。

また同フロアに仮眠室が設置されているのだが、ここで寝るとほぼ金縛りに遭う。
この部屋はあまり気持ち悪くなかったため、何度も利用したがほとんど金縛りに遭う。
ただ、金縛り以上の現象が起こらずあまり恐怖を感じなかった。
あまりにも金縛り確率が高いため、寝る位置を変えるなど色々と実験をしてみた。
結果、唯一有効だった方法が「カーテンを開けておく」というものだった。
深夜にカーテン開け放しは気持ちいいものでは無かったが、何故かそうすると金縛りに遭う事はなかった。

怪異は女子寮でも起きていた。
これは現在の妻、当時の客先女子社員に聞いたのだが、夜、寮の部屋に居ると子供たちの笑い声が聞こえてくる。
6階以上の部屋であるにも関わらず、窓の外から聞こえてくると言う。
気になって窓を開けて声の主を確かめようとすると、聞こえなくなる。
窓を閉めるとまた聞こえる。

ところがこれだけに留まらず、ある夜、別の女子社員が寮から飛び出し、友達の家に逃げ込む形で出て行ってしまった。
友人らは何があったのか聞いたが、頑なに話さなかったと言う。

一連の騒動が顧客上層部に知れ渡る事態となり、お払いを行ったそうだが、その時私は現場終了となり、妻も機を同じくして私と結婚・退職したため、その後どうなったかは定かでない。

埼玉のビルは今でもあるが、都内のビルは建て替えられたそうだ。

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