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学園戦士ケン 1章2節

2016/05/18

2、  保安隊のヒロアキとホール

  連絡があった。
 学園都市の郊外に住んでいる親子を、奴等が襲ったらしいのだ。
 そして娘をさらって森の中へ逃走したという。
 殺さずに娘をさらうという事件はたまにある。
 奴等の種族には女が少ないらしく、その為に少女と交わって子孫を作ろうと
するのだろうと推測されている。
 だが、奴等の死体を調査したところ、極めて人間に酷似しているものの、細
胞内の染色体の数が人間とは異なっていた為、結局正確な理由は解らなかった。
 「という訳だ、部下を連れ早急に娘さんを救出してくれ」
 と、保安隊隊長のダン・スカイラ-クが言った。
 幾つもの修羅場をくぐってきたことに裏付けされた落ち着きと、独特の徳を
持ち合わせた男だった。                           、、
 「娘さんが捕らえられているとなると、重火器のあれは使えませんね」
 A級隊員のヒロアキ・オークラが自分に言い聞かせるように言った。
 「使えるのは、超振動ナイフとプラズマ・ガンくらいね」
 と、隊長の娘でありA級隊員でもあるホールが、的確な判断を下す。
 超振動ナイフとは、バッテリー内蔵の高周波振動ナイフで、岩石でさえ両断
する。
 プラズマガンは内部に小さな高温プラズマを生成する機構を持ち、それを直
接発射する。
 それが顔に当たれば、瞬時に脳が沸騰し、蒸気爆発を引き起こす。
 二人はSFアニメさながらの『鎧』を身に付け、超振動ナイフとプラズマ・
ガンを手に取り、数人の部下と共に原子力バイク・バギーに乗り、森へと急い
だ。

  ヒロアキ、ホール、部下の順に並んで走っている。
 ホールがヒロアキの後ろ姿をじっと見つめている。
 熱い視線であった。
 ヒロアキは身長175cm程度、体格は普通並であり引き締まっている。
 顔は・・・まあ、人並としておこう。
 20才である。
 ホールは18才。
 ちょっと太めだが、たるんでいる訳ではない。
 ピンと張りつめた肌が、少女と女の間で揺れるたまらない色気を感じさせて
いる。
 少し長めの髪をポニーテールにしており、ベビーフェイスによく似合ってい
る。
 身長は160cmくらいであろうか。

  15分程走ると例の森に着いた。
 バイクとバギーを置いて森に入る。
 今彼等の心は、恐怖と緊張で一杯であった。
 いかにA級隊員といえども、奴等は怖い。
 奴等は人間を殺す事しか頭に無く、自分の死さえ恐れず向かって来る。
 やられてもやられても、自分の体の動く内は何回でも立ち上がって来る。
 腕がもげようが足が飛ぼうが内臓が四散しようが生きている。
 気は抜けない。
 一瞬の隙が死を呼ぶのだ。
  「気を抜くなよ」
 ヒロアキが皆に言い聞かせた。
 5分程歩くと、木陰に娘の衣服が落ちているのを部下の一人が見付けた。
 ヒロアキが衣服を取ると、それにはまだぬくもりがあった。
 どうやら奴等は近くに居るらしい。
 ヒロアキは手招きで皆を呼び集めた。
 「奴等が近くにいる。オレとホールちゃんは北、お前たちは東と西に分かれ
て捜索だ」
 「見付けたら『ジャイロ』の『アラーム』を鳴らせ」
 と指示を与えると、皆草に身を隠し北・西・東に散った。

  30秒程経過して、北へ向かったヒロアキとホールの『鎧』の右腕に付いて
いる『アラーム』が鳴った。
 「西か!ホールちゃん、走るぞ!!」
 「その『ちゃん』っていうのやめてくんないかなぁ」
  少し怒ったように頬を膨らしてホールが言った。
 「じゃ、なんて呼べばいいんだよ」
 「・・・・・・」
 ホールがヒロアキの無神経さに呆れた様に黙った。
 「いいから早く!!」
 ヒロアキが走りだす。
 「ぉおお!!!!」
 その時、近くで部下の叫び声が耳に入った。
 二人が急いで駆け付けると、奴と戦っている部下が目に入った。
 近くの木陰にもう一人の部下が倒れていた。
 「どうした?」
 ヒロアキが傷ついた部下に尋ねた。
 「油断しました。奴が超振動ナイフを持っているなんて!!」
 「何!奴等が!?」
 するとホールが冷静に言った。
 「多分、以前殺られた隊員の物でしょ。それより傷は?」
 看ると左胸の『鎧』が、肩からみぞおちまで奇麗に切られている。
 だがそれでも、超振動ナイフは隊員の筋肉を少し傷つけただけであった。
 「ホールちゃん!こいつを頼む!俺はあいつの助太刀にいってくる!!」
 と最後まで言い終えない内に部下の方へ走りだすヒロアキ。
 「その『ちゃん』ってゆーのやめ・・・・」
 振り返って言いかけた言葉を飲み込み、ヒロアキの後ろ姿を見送るホールで
あった。

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